ベネズエラ 南米

ベネズエラの旅 -カラカスで拉致される-

ベネズエラで拉致される!

カラカスの長距離バスターミナルに行きたい

夜8時頃に私は首都カラカスのボリーバル広場辺りにいました。

ベネズエラの旅の最大の目的はエンジェルフォールを見ることです。

エンジェルフォールへ向かうにはまずシウダーボリーバルに行く必要があります。

ここからカラカスの長距離バスターミナルに移動し、夜行バスでシウダーボリーバルまで向かうことにしました。

前のページにも書きましたが、カラカスは世界有数の危険な都市です。

殺人事件の起こる割合は東京の33倍。

怖すぎます。

なるべく危険な町を歩かないようにするためにタクシーに乗ることにしました。

 

タクシー運転手とのトラブル

事前に料金の交渉をしてカラカスの長距離バスターミナルへ。

タクシー運転手は運転しながら携帯電話で誰かと話していました。

窓を開けて走っているので町の騒音で電話の会話は聞こえてきません。

さて、目的地である長距離バスターミナルに着きました。

事前に決めた料金分の紙幣を渡すと、運転手は突然怒り始めました。

「こんなに移動したのにこの料金のわけがないだろう! 全然足りない!」と。

それから彼は事前に交渉した料金の3倍を要求してきました。

日常会話程度のスペイン語が話せる私は事前に決めた料金を聞き間違えたとは思えませんでした。

運転手の法外な要求を拒否しました。

すると運転手はタクシーを急発進させて、「わかった。それなら、警察に行くぞ。警察で解決してもらおう」と興奮気味に言いました。

しばらくすると警察署に着きました。

 

警察官の奇怪な行動

タクシー運転手は、警察署前に立っている40代くらいの警察官に話し始めました。

私はタクシーの中で次のように考えました。

自分のスペイン語の会話能力を考えると、警察官に事情を説明する上でタクシー運転手よりも自分のほうが圧倒的に不利。ここで面倒なトラブルに巻き込まれて今夜の長距離バスに乗れなくなるよりは、要求された通りにお金を払うほうが賢明かもしれない・・・・・・。

私はタクシー運転手に「分かりました。お金を払います」と言って、3倍の料金を支払いました。

お金を受け取った運転手は不機嫌そうな表情のままタクシーに乗って去っていきました。

私は無駄な出費を悔やみながら遠くに見えるバスターミナルまで歩くことにしました。

その時です。

さっきから警察署前で私と運転手とのやり取りを見ていた2人の若い警察官が、声を掛けてきました。

「パスポートを見せろ」

すでに解決したのに何だろう……と思いました。

先ほどの40代の警察官はパスポートの提示を求めませんでした。

しかも彼は私が料金を支払ったことで事は済んだと思っているようでした。

では、なぜ近くで傍観していただけの2人の警察官がパスポートの提示を求めたのでしょうか。

 

警察官の要求に拒否できない弱い立場

私は警察官を相手にしてパスポートの提示を拒否するわけにもいきませんでした。

バックパックからパスポートを取り出して彼らに見せました。

すると、その警察官1人が「バスターミナルまで送るからバイクの後ろに乗りなさい」と言いました。

日本の白バイとは違います。

カラカス警察のバイクはモトクロスバイクです。

抵抗がありました。

警察官がバイクの後ろに人を乗せてどこかまで送ってくれることがあるのだろうかと思ったからです。

バスターミナルまではそれほど遠くありません。

しかし、ここは危険な都市カラカス。

さらにすでに夜も更けていました。

 

警察官は良い人であると信じるしかない

この警察官たちは私を危険から守るためにバイクで送ろうと言っているのかもしれません。

バイクに乗ろうという気持ちになり始めました。

それでも抵抗がありました。

この警察官たちの表情や振る舞いに親切心が感じられなかったのです。

しかし、私は乗らざるを得ませんでした。

私はバイクに乗るのを遠慮しても、警察官たちが私のパスポートを返してくれないからです。

不可解さを感じつつも、私はモトクロスバイクの後ろに乗りました。

すると、もう一人の若い警察官が私の座っているすぐ後ろにまたがりました。

1台のバイクに3人。

私は前後の警察官に挟まれて乗っている状態です。

 

暗い所へ連れて行かれる

走り出した直後にすべてを悟りました。

左に向かうはずのバイクが右に走り始めたのです。

バイクは夜のカラカスの公道を走っていきます。

もう降りることはできません。

5分ほど走ってバイクは道路脇の暗い場所に停まりました。

一人の警察官が「財布のお金を確認する。財布を出せ」と要求してきました。

もう一人の警察官は私のバックパックに手を突っ込んで物色しています。

 

警察官には従うしかない

この警察官たちが悪人であることは間違いありません。

なんとか撃退できないかと考えました。

でも、それは無理でした。

 

その理由は次の2つです。

 

①警察官は拳銃を持っているため、私が抵抗すれば射殺される恐れがあります。

警察署前で堂々と拉致するくらいなので殺害をためらわないのかもしれません。

②抵抗すれば、警察官は公務執行妨害などの理由で私を逮捕できます。

私を犯罪者に仕立て上げることは容易だと思います。

 

このような理由から目の前で金品を奪おうとする二人の男に手が出せませんでした。

警察官が悪人であることは実にたちが悪いですね。

お財布から日本円、ドル、ベネズエラのボリーバルフエルテ紙幣を抜き取った警察官の二人はバイクに乗り込みました。

去り際にパスポートを投げ捨てて走り去って行きました。

私は暗闇の中に取り残され、絶望しました。

3週間に及ぶ旅の初日の出来事です。

 

泣き寝入りはしたくない

盗まれた現金は合計すると日本円にして8万円分。

幸い、現金の多くはバックパックの中に隠してあったのでその被害額で済みました。

でも、ベネズエラの若い警察官にとって8万円はかなりの大金です。

もちろん私にとっても大金です。

許せないという気持ちが高まった私はパスポートとバックパックを拾い上げて、今来た公道脇を逆走しました。

歩道のない道だったので、日本で言えば高速道路の端を走っているようなものでした。

30分以上走り続け、ついに警察署に戻ってきました。

 

警察署での訴え

警察署内の屋外駐車場に男性警察官を見つけました。

私は「ここの警察官にお金を奪われました」と伝えました。

すると、10人ほどの警察官が集まってきました。

さらに1時間ほど経って英語の話せる男性警察官が来ました。

彼は「すべての警察官がこのあと戻ってくるので、その警察官の中で誰が犯人か教えてください」と言いました。

とても親切そうな人でした。

 

犯人を見つける!

夜9時前から始まった犯人探し。

気がつけば、私の回りには50人以上の警察官とパトカーやバイクが集まっています。

まるで映画のワンシーンです。

全員が集まったのは午前1時過ぎでした。

5時間も掛かりました。

私は全員の中から犯人である若い警察官2人を見つけました!

私は通訳の警察官に「あの2人が犯人です」と伝えました。

これでもう大丈夫だと私は安堵しました。

私はその2人の前に近づき、目の前まで行きました。

警察署内に緊張が走ったのを肌で感じました。

 

無情な結末

通訳の警察官が「この2人が君からお金を奪ったのですか」と聞くので、「はい、この2人です」と自信をもって答えました。

すると、通訳の人は予想外のことを言いました。

 

通訳:「それなら、証拠を示して」

私:「え、証拠ですか?」

通訳:「そう。証拠がなければ対応できない」と言いました。

 

先ほどまでとは違い、通訳の人は私に対して厳しい表情を見せ始めました。

私は動揺しながら言いました。

 

私:「証拠って・・・・・・犯人の顔を覚えています。この2人の顔でした!」

通訳:「それでは証拠にならない」

私:「この服を着ていましたし、このヘルメットをかぶっていました」

 

警官の服には緑系と青系の2種類がありました。

また、ヘルメットをかぶっている人はわずかでした。

通訳は首を横に振りながら言いました。

通訳:「それでは証拠とは言えない。きちんとした証拠を見せてくれ」

 

・・・・・・これ以上の証拠はありませんでした。

もちろん、お財布やパスポートの指紋を調べれば分かるはずでした。

でも、私はそれを求めませんでした。

警察官たちに犯人を特定する気がなかったからです。

 

ベネズエラ警察の真の怖さ

あとで知ったのですが、ベネズエラでは警察官がこのような事件を起こすことは珍しくないそうです。

このような事件は「拉致」もしくは「短時間誘拐」と言います。

ベネズエラ警察はこのような犯罪を無くしたいのですが、それは困難だそうです。

あのとき通訳の警察官は私の主張を証拠不足として取り合ってくれませんでした。

もし通訳の警察官が私の話の通りに2人の若い警察官を犯人と見なしていたら、あとで復讐されるからです。

そのため、ベネズエラでは警察が警察官を取り締まるのは難しいとのことです。

拉致されるときに犯人を見ていた40代くらいの警察官が、事件の目撃者になってくれなかったのも同じ理由のようです。

原稿の添削・修正 広告

 

犯人から盗難届をもらう!?

警察が犯人を特定する気がないと悟った私は、奪われたお金をせめて海外旅行保険で補償してもらおうと考えました。

海外で盗難に遭った場合、現地の警察署で盗難届を作成する必要があります。

日本にそれを持ち帰って保険金の請求時に提出します。

それにしても盗難届を作成するために、年配の警察官から事情聴取をされている際は妙な気分になりました。

警察官:「どこで最初に犯人と会いましたか?」

私:「この警察署です」

警察官:「・・・・・・誰にお金を奪われましたか?」

私:「ここの警察官です」

警察官:「・・・・・・」

 

夜中の2時過ぎに聴取が終わり、翌朝受け取ることになりました。

ちなみに、現金は海外旅行保険の対象外になっている場合がほとんどです。

私は対象になっている保険に運良く加入していました。

そのため、帰国後に保険がおりて損失は無くなりました。

 

どこに宿泊するべきか?

すでに夜中の2時を過ぎていました。

この警察署を離れて旅を再開したいところですが、翌朝の盗難届を受け取るためにこの辺りで泊まらなければなりません。

警察官が「ここに警察官の寮があるから泊まっていきなさい」と言ってきました。

私は何度も断りました。

犯人のいる警察署に泊まるなんて危険すぎてお断りだったからです!

何度も強く断ったけれど、警察署の外も世界有数の犯罪都市・・・・・・。

結局、警察の寮で泊まることになりました。

 

ボロボロの警察署の寮

警察署に来て以来ずっと外にいた私は寮のイメージを勝手に良いほうへと作り上げていました。

寮に連れて行かれて唖然としました。

それはもうぼろぼろの寮だったのです。

部屋はとんでもなく汚くて、普段そこに寝泊まりしている警察官たちの生活感が余すところなくあふれ出ています。

狭い部屋の中に二段ベッドが並んでいます。

8人部屋でした。

下着1枚の姿で大きな体の警察官たちがあちこちで寝ています。

私のベッドは2段ベッドの上段で、下ではいびきをかきながら警察官のおじさんが寝ています。

 

ベネズエラでは蚊に注意

恐ろしかったのは部屋に蚊が飛んでいたことです。

ベネズエラではマラリア、デング熱、ジカ熱、チクングニア熱、そして黄熱病の菌を持った蚊が飛び回っています。

現地の人は「3回刺されたらアウト」と言います。

 

寮のシャワー

寝る前にシャワーを浴びることにしました。

日本を出発してから47時間後の初めてのシャワーです。

夜中の3時に寮の建物から外に出てすぐ横にある公衆トイレのようなぼろぼろの建物に入りました。

その建物はトイレ兼シャワー室でした。

シャワー室とトイレの境には扉もカーテンもありません。

誰か来ないかドキドキしながら、水しか出ないシャワーを浴びました。

いろいろなことが起こって気持ちの整理がつかないまま旅の1日目が終わりました。

 

日本大使館のお世話になる

翌朝、警察署に日本大使館の領事さんが来てくれました。

カラカス警察が連絡をしたそうです。

その後、領事さんと共に別の警察署に行きました。

そこは警察の内部捜査をしているところです。

カラカス警察の全警察官の写真を見て、誰が犯人かを特定することになりました。

3時間ほどかけて被害届を作成しました。

その後、日本大使館に行きました。

領事さんたちには大変お世話になりました。

 

タクシー運転手も共犯者!?

タクシー運転手がバスターミナルに向かう際に携帯電話で誰かと話していたことから、領事さんは次のような手口ではないかと教えてくれました。

・電話の話し相手は犯人である若い警察官たち。

・ターゲットが見つかったと連絡して警察署前に待機させた。

・乗車前に決めた料金を支払い時に大幅につり上げたのは、客である私が納得しないようにするため。

・タクシー運転手は納得しないのならば仕方ないというふりをして警察署に連れて行き、あとは仲間の警察官にお金を強奪させる。

 

領事さんのお話によると、ベネズエラでは犯罪者と警察官がグルになって旅行者から金品を奪うのは常套手段だそうです。

みなさんは気をつけてください!

 

シウダーボリーバルへ

クレジットカードは奪われていなかったのでATMでお金をおろして旅を再開しました。

夜7時半の夜行バスでシウダーボリーバルへ。

二階建てのバスだったので、せっかくなので二階の最前列に座りました。

眺めが良くてとても快適でした。

シウダーボリーバルには翌朝到着しました。

 

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